「DEAD-COPY デッドコピー」を考える 

文 : かぐさん



クローン技術の発達によって人間の完全コピーが再現できるようになった未来において、その技術を、犯罪に巻き込まれ命を落とした被害者の救
済のために利用しようと生み出されたのが「クローン技術による犯罪被害者救済制度」であると想像できる。
ここではその制度に関してどのような問題点があるのか、法制面・運用面から考えてみたいと思う。

 第一に、復活の対象となる者の資格である。まず考えられるのは刑法199条・殺人に該当する犯罪により命を失った者である。この場合、果たし
て乳幼児がその対象になった場合でもバックアップが存在すれば復活の対象となるのか、第1回の冒頭で描かれている14歳の定期検診が全国
民すべての「第一回目」になっており、それ以降の年齢の者に限られるのかは情報が少ないため断定は出来ない。しかし、刑法上の責任能力が
発生する14歳という年齢(刑法41条)が定期検診の開始年齢にあたるとすればその二つに何らかの関連があるのかどうか、非常に興味深い。

 また、殺人罪以外での落命の場合復活の対象に含まれるのかどうか。例えば刑法211条・業務上過失致死の場合、その内容が非常に悪質で
ある場合(飲酒運転を常習としていた、など)復活の考慮に値するのではないかと考えられる。ただ、これは条文によって明確な線引きがなされて
いなければ、或いは多くの判例によってその線引きが決定されなければならない事柄であると思われる。同じく第1回の冒頭で描かれているジャ
ンボ機墜落事故に対するクローン復活要求訴訟から見て「クローン技術による犯罪被害者救済制度」に関する法令はその点に関して明確な線引
きを成していないとも考えられる。この世界で今後判例を重ねることで線引きは明確になっていくのかもしれない。

 第二に、クローン復活の開始時期である。本編の資料だけではクローン体が完成するのにどれほどの期間が必要なのか正確な時間は明確で
はないが、それを考慮にいれても極めて早い時期に開始されているであろうことは作品内の雰囲気から類推できる。これは、クローン体が復活後
なるだけ早く社会に適合できるよう配慮されているためであろうと思われ、結果としてクローン体のオリジナルが死に至った事件が解決していなく
ても(緒方くんら3人組が重要参考人であるにも関わらず身柄拘束されていないことから想像できる)その状況が刑法199条・殺人であると明確で
あれば即クローン復活の手続きが開始されると思われる。

 第三に、クローン復活に対する本人の意思表示である。この世界ではクローン体は社会的に差別を受けている存在であり、それ故にクローン復
活を希望しない人間が多くいるであろうことは想像に難くない。19歳の栗原志保がクローン差別主義者であることは周知の事実であり、彼女がク
ローン復活を希望していなかったことは間違いがない。しかし、にも関わらず彼女が復活させられたのは彼女の年齢が19歳と未成年であったこと、
近々に保健所でバックアップを取っていたこと、この二つに加えて両親の強い希望もあって実現したことと思われる。想像するに、この世界ではク
ローン復活に対して臓器提供の意思表示用ドナーカードのようなものが存在しているが、未だ世間一般の人間がすべてそれを所持しているまでに
はいたっていないのではないかと思われる。

 しかし、普通に考えて保健所に登録されていたデータが14歳時のものだけであったにも関わらず復活を安易に見とめた行政側はなんらかの責任
が問われるべきではなかろうか。これに関してはなんらかの法規定が別に存在するのかもしれないが。

 第四に、バックアップデータの管理に関してである。バックアップデータは言わば人間そのものであり、個人情報の塊でもある。これは「クローン
技術による犯罪被害者救済制度」に該当するクローン復活が行われるとき以外は厳重に保管されなければいけないことは言うまでもない。にも関
わらず作品内では「バックアップを取ったのに保健所に登録されていない(第2回)」「他人のバックアップを勝手に持ち出している(第4回)」「違法ク
ローンが後を絶たない(第4回)」など、その管理は非常にずさんである。これはバックアップデータの管理者(保健所)及びクローン復活施設(主に
病院であろうと思われる)のモラルの低さ、クローン制度の悪用者に対する罰則規定の甘さなど、様々な問題点が想像できる。

 第五に、「オリジナルが罪を犯しても再生されたクローン体にその記憶が残っていない場合は罪に問われない」という高津氏の発言である。これ
は刑法39条・心神喪失及び心身耗弱に当たるとして確立された判例であろうと思われる。

 しかし、今回の事件においては第4回・OURsLITE2002年7月号239ページより考えるに、栗原志保が近々にバックアップを取ったことを認識した
上で高津氏が計画的に「バックアップを取ったクローン差別主義者」を殺害しようと考えた可能性があり、その場合、高津氏には上記判例は該当し
ない可能性が非常に高い。このことを見逃し、安易に高津氏の復活後の自由行動を許可した当局のずさんな捜査が糾弾されるべきである。同様
に、クローン体とはいえ、同じ場所で殺され何らかの関係があると考えられる二人を安易に接触させた病院側もまた糾弾されるべき立場であろうと
考えられる。



参考文献:三省社「模範六法」2002・平成14年版(web版) (条文参照はこれによる。)
      成文堂 中山研一編「刑事法小事典」1992年10月31日初版第1刷発行 (学生時代お世話になりました。)





以上、学生時代を思い出して書いてみました。どうでしょう?もしお読みの方で法律に詳しい方がおられましたら、いろいろと突っ込みを入れていた
だくと幸いです。なにしろ、卒業論文以降こういった内容の文章を書くのは久しぶりですから自信がなくて・・・。

というわけで、少年画報社OURsLITEに全4回短期集中連載された作品「デッドコピー」です。
この作品は短期集中連載で終わらせるにはあまりにもったいないほどの世界の深さがあり、そのことに対する残念さが私に上記の文章を書かせ
ることとなりました。出来れば同じ設定での別のお話なんかも読んでみたい今日この頃です(例えば、高津氏が狂気へととらわれていく様、とか)。